SNSの宣伝でたまたま知った、「生誕100年 森英恵 ヴァイタル・タイプ」展。いつもは絵の展覧会ばかりの私ですが、「洋服の展示」というのは初めてで、これは面白そうだと前売り券を購入しました。

……ところが、そこからぐずぐず、ぐずぐず。気がつけば会期終了まであと1週間。「行かねば!」と慌てて出かけたその日は、よりによって台風の大雨。おまけに前日は地震まで。

でも、ここでピンときました。「この天気なら、きっと空いてる」。

雨に濡れずに、美術館へ

会場は六本木の国立新美術館。大手町で千代田線に乗り換えて、乃木坂駅へ。実はこの美術館、乃木坂駅から直結の通路でそのまま入れるのです。外はしっかり雨が降っていましたが、傘いらずでするりと到着。雨の日の美術館行きには、ほんとうにありがたい構造です。

電車の中は、いつもの休日に比べるとすいている印象。とはいえ、「今日は空いてるかも」と同じことを考えてお出かけしている風の人も、ちらほら見かけました(行き先はいろいろでしょうが)。考えることは、みんな同じですね(笑)

開館時間前に到着すると、読みは大当たり。会場はものすごくガラガラで、ゆったりじっくり見てまわることができました。

黒川紀章設計の大空間。逆さの円錐とガラスの壁に、いつ来ても見とれます。

入ってすぐの「おお!」── 着物地のドレス

会場に足を踏み入れて、最初に「おお!」と思ったのが、着物の生地で仕立てられたドレスたちでした。

金襴や絣といった、日本の伝統的な織物。それが、ジャケットになり、コートになり、カクテルドレスになっている。日本の生地や柄のすばらしさをちゃんと軸に置きながら、海外の人たちにも受け入れられやすいデザインに落とし込んで見せている――森英恵さんという方は、そういう仕事をしてきた人なんだなと、冒頭からぐっと引き込まれました。

着物の生地が、ドレスやジャケットに。日本の美を、世界に伝わるかたちで。

生地は、一枚の絵 ── 反物が舞う部屋

そして、今回いちばん心に残った展示室がこちら。天井から、蝶や牡丹の描かれた色鮮やかな反物がずらりと吊るされ、その下に、同じ生地で仕立てられたドレスをまとったマネキンたちが立っている――という空間です。

これはつまり、洋服の生地を「一枚の絵」に見立てて、その絵を洋服として仕立てたとき、いかに生かして見せるか、という展示なのですね。ぐるりと360度、どこから見ても絵になる。平面の絵を立体に起こす構成力とデザインの力に、ほんとうにすごいなあと、しばらくその場を離れられませんでした。

生地は一枚の絵。宙に舞う反物と、その絵をまとったドレスたち。

「これも芸術なんだ」── オートクチュールの世界

正直にいいますと、私はこうったデザイナーの洋服を「自分が着られるかどうか」という基準で見てしまう人間です。その目で見ると、彼女のデザインは自分にはちょっと受け入れがたく、お値段的にも到底手の届かない世界のもの。

ところが、生地を折り、編み、重ねて作られたオートクチュールの数々を前にして、はたと気がつきました。デザインとは、一つの表現であり芸術の世界であると同時に、人々の生活のために服を提供するという営みでもある。その両輪で成り立っているのだ、と。

そう思えた瞬間、これまでピンとこなかったファッションショーの、プレタポルテやオートクチュールの世界観が、すとんと腑に落ちました。ああ、これも一つの芸術なんだな、と。よそ行きとはいえ、街中で着られるデザインとして折りや編みの技術を注ぎ込む――その凄みを、遅ればせながら理解した一日でした。

折る、編む、重ねる。街で着られる服に注がれた、オートクチュールの技。

お土産は「森英恵好み」

ミュージアムショップでは、かわいい缶に惹かれて、缶入りクッキーをお買い上げ。米粉やキビ糖などで作られた、ヘルシーでやさしい味のクッキーでした。蝶と花々の描かれた缶は、食べ終わったあとも小物入れにできそうです。

もうひとつ、「森英恵好み」と書かれたドリップコーヒーも興味本位で購入。エチオピアの中浅煎りだそうで、これが本当においしくて。ワインのような果実の味わいなのに酸味はひかえめで、コクのある一杯でした。森英恵さん、コーヒーの趣味もすてきです。

「森英恵好み」のコーヒーと、蝶の舞う缶入りクッキー。

目論見、はずれる ── 東京駅にて

さて、せっかく大手町方面に出てきたのだからと、帰りは東京駅へ。「台風と地震だもの、きっと東京駅も空いてるはず」――そう踏んでいたのですが。

結論。目論見は、はずれました。混んでました(笑)

お腹がすきすぎて、駅に着くまでにまず駅そばで軽く一杯。その後キャラクターストリートへ向かったはいいものの、あいかわらずの混雑ぶりに早々に退散。前から気になっていた刀剣乱舞のお店(大丸東京)をちらっとのぞいて、家路につきました。

……と言いつつ、乗り換えの途中でまたお腹が空いて、焼肉を食べちゃったのはここだけの話。締めの締めは、乗った電車がめずらしい花柄のラッピング電車で、思わずぱちり。本日の散歩は、ここまでです。

おわりに

台風の雨の中、駆け込みで訪れた「生誕100年 森英恵 ヴァイタル・タイプ」展。静かな会場でゆっくり向き合えたおかげか、洋服の展覧会というはじめての体験から、「デザインは芸術と生活の両輪」という、思いがけない気づきをもらって帰ってきました。

絵の展覧会もいいけれど、こういう出会いがあるから、ジャンルの違う展示に足を運んでみるのもいいものですね。会期ぎりぎりの駆け込みも、たまには悪くない――いや、次はもう少し余裕をもって行きます(笑)

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